パトリシア・マズイ監督『Paul Sanchez est revenu ! / ポール・サンチェスが帰って来た!』はサスペンスドラマ。
10年前に妻と4人の子どもの一家を皆殺しにし姿をくらましていた容疑者、ポール・サンチェス(ローラン・ラフィット)の目撃情報が流れる。場所は南仏ヴァール県周辺。地元の憲兵隊(ジャンダルム)は半信半疑のまま、とりあわない。しかし女性憲兵のマリオン(ジタ・アンロ)だけがこの情報を真に受ける。一種の勘か。地方紙の記者で彼氏でもあるヨハンを引き込んで独断で捜査に乗り出す。彼女にとってP・サンチェスを追い詰め捕らえることは使命となってきた。といういうよりむしろ、彼女のオブセッションになってきたと言った方がいいかもしれない。彼女の熱に圧倒されて同僚や上司も揺れ動く。もし本当なら、これは彼らの大手柄になる。並行して、映画はP・サンチェスの逃避行を追う。追い詰められて山岳地帯の岩場に野宿し、情報集めや買い出しに下界に下りて来る。しかし何故彼は10年の失踪に終止符を打ち、このような行動にでたのか?インターネットカフェから彼は記者のヨハンに真相を話したいというメールを送る。両者が接近する。ついに憲兵隊も動き出すが、彼の行方はつかめない。そんなある朝、ジョギング中のマリオンがついにサンチェスの住処を突き止める…。
この先、物語は意外な展開をみせるのだが、ネタバレになるので書かない。思い返せば映画のあちこちに伏線が何気に張られていた。私が本作に惹かれたのはサスペンス映画として良くできている以上に、主人公マリオン、そして逃亡者の行動の奥の深層心理が興味深かったからだ。ちなみに、警察とほぼ同じ任務を負う憲兵隊は日本にはないが、主に都市部は警察、地方は憲兵隊という区分になっているようだ。(吉)